特殊詐欺と吉本興業

 最初に誤解のないように、釈明する。吉本興業が特殊詐欺をしているということではない。(念のため)

 6月にタイで特殊詐欺グループが摘発され、日本人15人が捕まった。アパートを借りて、会社組織のように、規律正しく「業務」を行い、集団生活をしていたらしい。多くが20代の若者だった。ネット情報だから、怪しい話だが、そこのリーダーはアポ電話をかけるメンバーに「老人は若者から搾取して、金をため込んでいる。だから、老人たちから金をとることは、富の偏在の是正なのだ。正しいことだから、自信もってやれ。」というような指示をしていたという。本当か否かは定かでないが、もし、そのようなことがあるとすれば、今の若者が置かれている絶望的な状況が垣間見える。『罪と罰』のラスコーリニコフではないが、犯罪とわかっていても正義は我にあり、後ろめたさなどないということだ。今の世の中、正しいことを真面目にしても、どうせ生きられないし、まともな生活など期待できないのだから、捕まるリスクがあろうが、やったもん勝ち、というべきか。

 同じ頃、吉本の芸人の闇営業問題も起きていた。闇営業自体よりも驚いたのは、吉本所属の芸人が5000人もいるということだった。売れて、芸人としてやっていけるのは数パーセントの人たちなのだろうが、売れることを夢見て、NSC(吉本の養成所)には若者が押し寄せるという。一発当てれば、億の収入もあるが、だめなら、何の保証もない世界。まさに人生の「バクチ」をしているのかもしれない。

 70年代までの日本社会は「コツコツ頑張れば、それなりに報われて家庭が持てて、幸せになれる」というまさに中流意識があった。たとえ、いわゆる学歴学力が無くてもブルーカラーとして仕事が定年まで保証され、賃金が家庭を支えることができた。しかし、今はどうか。起業精神とIT能力を持っていれば、20代でも巨万の富を得られるが、そうでないと仕事が非正規しかないという極端な格差社会になっている。一度、貧困の世界に入ると抜け出せない。いわゆるアメリカンドリームは今やアメリカにも無いという。90年代のバブル崩壊後、日本も同じになった。こんな社会では今までの「頑張れば、何とかなる」という価値観は馬鹿らしいものになるのだろう。であれば、犯罪であろうが、何でもやる。あるいは、将来なんて考えずに、イチかバチか芸人に賭けてみる気になるかもしれない。

 「将来」が期待できないから、「今」だけを考えざるを得ない若者。年配者は若者の将来を案じて、よく考えて頑張れと説教するが、若者には上から目線のいやらしさしか感じないのかもしれない。これまで正しいとされてきた価値(=ポリティカルコレクトと言ってもよい)すべてが老人たちのきれいごとにように見えるから反発する。反戦平和や自由、公正を掲げるいわゆる戦後リベラリズムに嫌悪し、朝日新聞や岩波アカデミズムを否定し、自民党を支持し、ネトウヨに賛同する今の若者の姿がそこにある。

 フランクルの『夜と霧』によると、過酷な収容所の中で最後まで生き延びた人には共通点があったという。それは「希望」を捨てなかった人だという。どんな状況でも、夕日の美しさに感動したり、笑うことができた人だという。今の若者は「希望」をどうしたら持てるようになるのだろうか。


永遠の安らぎ

サイトのURL avyaya nirvana はサンスクリット語で「永遠の涅槃」  自分が老いていく中で、自分が見たもの、感じたものを通じて安らかな日々を得たいと思っています。

0コメント

  • 1000 / 1000